自民党政府のマスコミ工作~日本版モッキンバード作戦(CIAの作戦)

 ニュースサイト「リテラ」に次の記事があった。

菅首相が官房機密費のうち87億円を領収証なしで支出! 総裁選出馬表明前日には9000万円を自分が自由に使える金に振り分け

https://lite-ra.com/2021/01/post-5755_3.html

 これは現首相菅が7年8ヶ月にわたる官房長官時代に使った官房機密費のうち、9割以上にあたる86億8000万円もの金を領収書を発行せずに使っていた(つまり使途不明金)というしんぶん赤旗の記事に関連して載せた記事だが、この中に菅のマスコミ工作についての紹介があった。「これまでも選挙資金だけではなく、官房機密費がメディアに登場する政治評論家やジャーナリストなどへの支出に使われてきたという疑惑が持ち上がってきたが、第二次安倍政権下では、それがもっと露骨になっている可能性が高いと言われてきた。第二次安倍政権では、メディア、ジャーナリスト、評論家が雪崩を打ったように御用化し、安倍応援団に組み込まれていったが、そのマスコミ工作の中心人物が官房長官である菅首相だった。そして、ジャーナリストの懐柔に官房機密費が流れているのではないかと囁かれてきた。」

実際、菅氏が総裁・総理となってからは動静が報じられるようになったが、菅首相は新型コロナの感染が拡大するなかでも「はしご会食」を繰り返し、とくにマスコミ関係者との会食が連日のようにおこなわれていた。動静で確認できたマスコミ関係者との会食は12月だけでも以下のとおりだ。

12月4日/リベラルタイム出版社代表取締役編集長・渡辺美喜男氏ら
12月9日/ジャーナリスト・後藤謙次
12月10日/日本経済新聞・喜多恒雄会長、岡田直敏社長ら
12月14日/政治評論家の森田実氏ら
12月15日/フジテレビ・宮内正喜会長、遠藤龍之介社長ら
12月16日/読売新聞東京本社調査研究本部・小田尚客員研究員、日本テレビ・粕谷賢之執行役員、政治ジャーナリスト・田崎史郎
12月17日/雑誌「プレジデント」小倉健一編集長

 官房長官時代は、このように首相動静で公開されることがなかったため、いつ誰と会ったか詳細は明らかになっていないが、新聞・テレビ各社の幹部、週刊誌の編集幹部、政治評論家、さらにはワイドショーのMCやコメンテーター、芸能プロダクション幹部とも頻繁に会食していたことがわかっている。」

 つまり菅は官房長官時代から大手マスコミを政府の翼賛を行うそれに改変するために、あらゆる手立てを使ってきた。その資金こそが官房機密費であったと思われるのだ。実際、NHK、民放問わず今の放送局、大手マスコミは政府の主張を知り押しする輩どもであふれている。NHKの岩田明子、田崎スシローこと田崎史郎、三浦瑠麗、有本香といった連中、芸人では立川志らく松本人志吉本興業の面々…。このような連中がニュース番組やワイドショーに登場しては政権擁護の論調を繰り広げている。政府に批判的なマスコミ関係者や放送関係者は次々にパージされ、少数派になっているというのが今の現実だ。買収、スキャンダルをネタにしての脅迫、取り込んだマスコミ経営者を使っての恫喝、脅し…。あらゆる手を使ってマスコミの御用工作化を菅は官房長官時代に行ってきたのではなかろうか? その象徴とも言えるのが、度重なるマスコミ関係者との会食だ。ホイホイとこの会食に乗っているマスコミ関係者は一体何なのだ?と思う人が多いだろうが、これ自体がマスコミ工作ではないと私は思う。すでに取り込まれているからこぞ、これらのマスコミ関係者は会食にのこのこと出席するのだ。

 官房長官時代に7年8ヶ月にもわたってマスコミ工作を行ってきた菅。その工作はかなり進んでしまっている。が、この工作をやったのは日本が初めてではない。すでにアメリカで50年代から長きに渡って行われてきたのである。それを「モッキンバード作戦」という。第二次大戦終了直後、アメリカとソ連は厳しい対立関係に入った。いわゆる「冷戦」である。40年代後半からアメリカの権力者は共産党系の人間をあらゆる手を使ってパージし始めた。「赤狩り」である。

 とうぜんにも権力者どもはマスコミでも共産党系のパージを始めた。当時のマスコミ関係者は親ソ連の記者が多かったのである(第二次大戦時は同じ連合国の一員であったからであり、アメリ共産党もそれなりの勢力を保っていた)。親ソの記者を排除しつつ、国内のマスコミを政府翼賛の方向で固めていく。これが戦後発足したCIAによるマスコミ工作「モッキンバード」作戦である。この作戦が明るみに出たのは、1975年にアメリカ上院情報調査特別委員会(チャーチ委員会)で、元ワシントン・ポストのカール・バーンスタイン記者が77年に明らかにしたところによると、20年間にCIAの任務を秘密裏に実行していたジャーナリストは400名以上に達し、そのうち200名から250名が記者や編集者など現場のジャーナリストで、残りは、出版社、業界向け出版業者、ニューズレターで働いていたとのことであった。全国の大手マスコミにCIAの工作員が相当数潜入していたということである。

 だからといってアメリカのマスコミが政府の批判を全くやらないわけではない。例を挙げれば大統領選での数々のスキャンダルの暴露である。だがそれはアメリカの権力抗争の枠内でのそれである。アメリカの権力者といっても一枚岩ではないからである(金融資本を中心とする東部エスタブリッシュメントと中西部の軍事・石油産業を中心とする独占体)。これをはみ出す部分については徹底的に弾圧する。一例を挙げれば、67年のクレイ・ショー裁判である。これはケネディ暗殺事件の真相(軍産複合体につながる政治家たちがベトナムからの撤退というケネディの決定を覆し、ベトナムへの本格介入を行うために実行した)をニューオリンズの地方判事ジム・ギャリソンが暴き出すために起こした裁判であるが、CIAは影響力のあるマスコミを使って徹底的にネガティブ・キャンペーンを繰り返し、重要な証人を何人も暗殺した(これは91年のオリヴァー・ストーン監督による映画「JFK]に詳しい。当時のオリヴァー・ストーンもよく似たネガティブキャンペーンにさらされている)。さらに、86年のイラン・コントラゲートのあとにニカラグアコントラに資金援助をやったCIAは、その見返りに麻薬を受け取ってる。この麻薬をCIAがカリフォルニアで売却し現金に換えていたということを暴露したジャーナリストが、CIAに息のかかったマスコミ各社の徹底したネガティブ・キャンペーンにより自殺に追い込まれている(ニコラス・スカウ「CIAの驚くべき世論操作)。

 日本の場合においては、権力闘争が激化しているわけでもないので、政府批判が少数派になっているというわけである。ともあれ、CIAが過去アメリカ国内で行ってきたマスコミ工作と同様の工作が日本でも行われてきたと私は思っている。そういうことを念頭に置いたうえで、大手マスコミ各社の論調を批判的に見ていく必要があると私は考える。